ジリリリリリリリ!
けたたましいベルが鳴り、電車が発車する。
後…、7駅で降りる駅だ。
5つ目で乗り換えて、残り2つは別の列車で進む。
この前は、彼が隣にいた。
外の景色を見るともなしに見る。
今日は、よく晴れている。
もうすぐ夏を迎える空の青が春よりも色みを増す。
今朝まで雨だったから、外に出れば濡れた緑が良く見えるだろう。
山の間を走っているので、窓には山並みと黒とが交互に顔を出す。
暗闇の中、窓に映るのは自分の顔ばかりで、トンネルに入ると早く出口に言ってほしいと切望する。
同じ見るなら山並みの方が変化があって面白い。
最後に会ったのはいつだったか。
確か、2週前。
見える景色は町並みより山や川である方が多い。
着くまでの7駅で、町が見えるのは2、3箇所。
大きな駅も、そのくらいだ。
まあ、町並みは昼より夜の方が見ごたえがあるから、そのくらいの方がいい。
故郷が同じ彼とは、よく一緒に帰省していた。
都合が合わないときはどちらか先に帰った方が駅で迎えるのが常だった。今回は彼の方が先に帰っている。
『次は、○○駅。次は○○駅。お降りのお客様はお忘れ物のございませんよう…』
車掌のアナウンスが流れる。
気がつけば後4駅だ。ボーっとしている間に随分進んでいたらしい。
もうすぐ乗り換えの駅だ。
高校の時、彼の男子校と私の女子高合同でやった交流文化祭で共に実行委員をやったのが縁で、付き合うようになった。
よく笑う朗らかな人で、私はその穏やかさを好きになった。
付き合ううちに結構頑固なところがあるとか、私の周囲では珍しい、イベントごとの好きな人だと知った。
みんなで騒げる、というのが嬉しいらしく、バレンタインも私から貰うのを待たずに、渡してきた。
ふと、暑さを認識して、少し伸び上がってブラインドを下ろした。
暇つぶしがなくなったが、もう少しで乗換えだ。
構いはしない。
ホワイトデーはどうするの、と聞いたら、また交換しようよ、とあの人は言った。
それで、一緒にどこか行こう。
あれが付き合いだして初めてのデートで、一緒に列車に乗ったのも、あの時が初めてだった。
声をかけるきっかけをもらえるから、イベントが好きなんだ。
やっぱ意気地なしかな、と呟きながらあの人は笑っていた。
乗り換えの駅で忘れ物を確認して降り、人の波間を通って、改札を抜ける。
約10分後の電車に乗り換えて、しばらく揺られたら、電車の旅は終わる。
どうしようもなく好きだ。
深い色を湛えて、かすかに口元を緩めて笑う、あの顔が。
あの顔だけは、私以外の誰にも見せなかった。
真剣な顔も好きだ。
強くて、目の離せない酷くまっすぐな視線。
触れる手が、私に話すときに少し低くなる声が、回される腕が。
在来線に乗り換える。
カタタンカタタンと緩やかな音が聞こえる。
今度の座席は影の側だったので、直射日光は入ってこない。
さっきよりは緑が良く見える。
電車に乗った頃より乾いてる。
そろそろ梅雨も明ける…。
好きだ。
好きだ。
変わらず好きだ。
今も。
ずっと。
忘れられるのはいつなのか。
思い出にするのは?
「過去」で、「大切な人」になるってなに?
うっかり乗り過ごしかけて、慌てて荷物を引っつかんで降りた。
切符を改札に通して、駅構内を出た。
ああ、青い。
ほんとに晴天。
なのに滴が顔に当たる。
傍には樹木も電線もない。
天気雨が狐の嫁入りだなんて嘘だ。
晴天に雨。
それは、見せ掛けの。
さよならは言わなかった。
またね、も言わなかった。
今も好き。
多分私もあなたもそう言いかけて。
いつか。
それだけ
言った。
ミクシーよりちょこっと直してサルベージ。
今までに書いた中では割と気に入っている作品。
似たような雰囲気で書いてるものがupしてないやつでもう1点あるけど、こっちの方が気に入ってるかな。
そちらの方もその内upします。
もし良かったら感想ください(^−^)
けたたましいベルが鳴り、電車が発車する。
後…、7駅で降りる駅だ。
5つ目で乗り換えて、残り2つは別の列車で進む。
この前は、彼が隣にいた。
外の景色を見るともなしに見る。
今日は、よく晴れている。
もうすぐ夏を迎える空の青が春よりも色みを増す。
今朝まで雨だったから、外に出れば濡れた緑が良く見えるだろう。
山の間を走っているので、窓には山並みと黒とが交互に顔を出す。
暗闇の中、窓に映るのは自分の顔ばかりで、トンネルに入ると早く出口に言ってほしいと切望する。
同じ見るなら山並みの方が変化があって面白い。
最後に会ったのはいつだったか。
確か、2週前。
見える景色は町並みより山や川である方が多い。
着くまでの7駅で、町が見えるのは2、3箇所。
大きな駅も、そのくらいだ。
まあ、町並みは昼より夜の方が見ごたえがあるから、そのくらいの方がいい。
故郷が同じ彼とは、よく一緒に帰省していた。
都合が合わないときはどちらか先に帰った方が駅で迎えるのが常だった。今回は彼の方が先に帰っている。
『次は、○○駅。次は○○駅。お降りのお客様はお忘れ物のございませんよう…』
車掌のアナウンスが流れる。
気がつけば後4駅だ。ボーっとしている間に随分進んでいたらしい。
もうすぐ乗り換えの駅だ。
高校の時、彼の男子校と私の女子高合同でやった交流文化祭で共に実行委員をやったのが縁で、付き合うようになった。
よく笑う朗らかな人で、私はその穏やかさを好きになった。
付き合ううちに結構頑固なところがあるとか、私の周囲では珍しい、イベントごとの好きな人だと知った。
みんなで騒げる、というのが嬉しいらしく、バレンタインも私から貰うのを待たずに、渡してきた。
ふと、暑さを認識して、少し伸び上がってブラインドを下ろした。
暇つぶしがなくなったが、もう少しで乗換えだ。
構いはしない。
ホワイトデーはどうするの、と聞いたら、また交換しようよ、とあの人は言った。
それで、一緒にどこか行こう。
あれが付き合いだして初めてのデートで、一緒に列車に乗ったのも、あの時が初めてだった。
声をかけるきっかけをもらえるから、イベントが好きなんだ。
やっぱ意気地なしかな、と呟きながらあの人は笑っていた。
乗り換えの駅で忘れ物を確認して降り、人の波間を通って、改札を抜ける。
約10分後の電車に乗り換えて、しばらく揺られたら、電車の旅は終わる。
どうしようもなく好きだ。
深い色を湛えて、かすかに口元を緩めて笑う、あの顔が。
あの顔だけは、私以外の誰にも見せなかった。
真剣な顔も好きだ。
強くて、目の離せない酷くまっすぐな視線。
触れる手が、私に話すときに少し低くなる声が、回される腕が。
在来線に乗り換える。
カタタンカタタンと緩やかな音が聞こえる。
今度の座席は影の側だったので、直射日光は入ってこない。
さっきよりは緑が良く見える。
電車に乗った頃より乾いてる。
そろそろ梅雨も明ける…。
好きだ。
好きだ。
変わらず好きだ。
今も。
ずっと。
忘れられるのはいつなのか。
思い出にするのは?
「過去」で、「大切な人」になるってなに?
うっかり乗り過ごしかけて、慌てて荷物を引っつかんで降りた。
切符を改札に通して、駅構内を出た。
ああ、青い。
ほんとに晴天。
なのに滴が顔に当たる。
傍には樹木も電線もない。
天気雨が狐の嫁入りだなんて嘘だ。
晴天に雨。
それは、見せ掛けの。
さよならは言わなかった。
またね、も言わなかった。
今も好き。
多分私もあなたもそう言いかけて。
いつか。
それだけ
言った。
ミクシーよりちょこっと直してサルベージ。
今までに書いた中では割と気に入っている作品。
似たような雰囲気で書いてるものがupしてないやつでもう1点あるけど、こっちの方が気に入ってるかな。
そちらの方もその内upします。
もし良かったら感想ください(^−^)
本を積み。
積んだものを崩して。
また積む。
かなりの間、ずっとこの作業を続けている。
崩して。
積んで。
また崩す。
初めてではないのだろう。
対象となっている文庫本は表紙も中身もボロボロだ。
積んで。
崩して、積んで。
夏目漱石
赤川次郎
川端康成
カバーは取れ、表紙はクシャクシャ。
中身も折れ曲がった、既に本来の役割を果たすには厳しい状態のもの。
崩す。
積む。
崩す。
記された著者名は対象年齢のかなり上向けのもの。
何度も何度も繰り返す。
飽きることなく。
積み、崩し。
積み、崩し。
じーっと見てるだけなのも暇なので、とりあえず手伝う。
とにかく積みたいらしいから、彼の抱えられる程度の本をまとめて、手渡す。
積む。
積む。
崩す。
積む。
積む。
崩す。
飽きずにやっているのに、楽しそうに笑っているわけではなく。
しかし、彼はこれを繰り返す。
何がしたいのだろう。
積む。
積む。
積む。
崩す。
積む。
積む。
積む。
積む。
崩す。
積む。
積む。
積む。
積む。
積む。
ゆがむ。
……崩す。
ゆがむ?
ふいに、分かった。
彼は
片付けたいのだ。
両親がやっているように、綺麗に。
積んで。
何回も積んで。
散らばっていた本を、まっすぐ。
綺麗に。
「やったねー!できたねー!」
やっと、彼が笑った。
ssミクシーサルベージ。
先輩の手伝いでちょっとだけベビーシッターしたときの経験談から。
嬉しかったんですよ。
分かったことも、それで嬉しそうに笑ってくれたのも。
またこういう機会があるのか分かりませんが。
恋愛以外のものも書いていきたい。
架空のもの、というのは、私にとって、長編向き。
ssは、逆にかなり日常に沿ってる気がします。
詩に近い感じで捕らえてるせいでしょうか。
載せてるものは全て、私本人の見たもの、聞いたもの、体験したものが元になってます。
その一部を一つの物語に。
伝えたいことを濃縮するので、勉強になるし、書きたいことを書くまでの繋ぎが最低限に出来るので、すごく楽しいです。
長いなら長いなりの題材があるので、それはそれで楽しいんですけどね。
次はどんなのにしようかなあ。
日記になるか、またサルベージか、新作か。
うーん、SS更新する気になった時に、雨が降ってたら、ミクシーにも載せてない新作SS載せるかも。
雨が題材なので。
積んだものを崩して。
また積む。
かなりの間、ずっとこの作業を続けている。
崩して。
積んで。
また崩す。
初めてではないのだろう。
対象となっている文庫本は表紙も中身もボロボロだ。
積んで。
崩して、積んで。
夏目漱石
赤川次郎
川端康成
カバーは取れ、表紙はクシャクシャ。
中身も折れ曲がった、既に本来の役割を果たすには厳しい状態のもの。
崩す。
積む。
崩す。
記された著者名は対象年齢のかなり上向けのもの。
何度も何度も繰り返す。
飽きることなく。
積み、崩し。
積み、崩し。
じーっと見てるだけなのも暇なので、とりあえず手伝う。
とにかく積みたいらしいから、彼の抱えられる程度の本をまとめて、手渡す。
積む。
積む。
崩す。
積む。
積む。
崩す。
飽きずにやっているのに、楽しそうに笑っているわけではなく。
しかし、彼はこれを繰り返す。
何がしたいのだろう。
積む。
積む。
積む。
崩す。
積む。
積む。
積む。
積む。
崩す。
積む。
積む。
積む。
積む。
積む。
ゆがむ。
……崩す。
ゆがむ?
ふいに、分かった。
彼は
片付けたいのだ。
両親がやっているように、綺麗に。
積んで。
何回も積んで。
散らばっていた本を、まっすぐ。
綺麗に。
「やったねー!できたねー!」
やっと、彼が笑った。
ssミクシーサルベージ。
先輩の手伝いでちょっとだけベビーシッターしたときの経験談から。
嬉しかったんですよ。
分かったことも、それで嬉しそうに笑ってくれたのも。
またこういう機会があるのか分かりませんが。
恋愛以外のものも書いていきたい。
架空のもの、というのは、私にとって、長編向き。
ssは、逆にかなり日常に沿ってる気がします。
詩に近い感じで捕らえてるせいでしょうか。
載せてるものは全て、私本人の見たもの、聞いたもの、体験したものが元になってます。
その一部を一つの物語に。
伝えたいことを濃縮するので、勉強になるし、書きたいことを書くまでの繋ぎが最低限に出来るので、すごく楽しいです。
長いなら長いなりの題材があるので、それはそれで楽しいんですけどね。
次はどんなのにしようかなあ。
日記になるか、またサルベージか、新作か。
うーん、SS更新する気になった時に、雨が降ってたら、ミクシーにも載せてない新作SS載せるかも。
雨が題材なので。
星たちがささやく。
「もうすぐあの二人が来るよ」と。
「ごめん、遅くなった。」
「ううん、そんなに待ってないから。」
そうして二人は歩き出す。
今日だけは、両河岸は行来可能だ。
そこかしこに久方ぶりの再会を喜ぶ恋人たちが見受けられる。
いつもは夜遅くまで賑わう場所も、この夜だけは恋人たちだけのための場所になる。
もうしばらくしたら、彼らも思い思いの場所へと散っていくだろう。
男は1年ぶりのぬくもりを抱きしめながら、
「なんだか、悪いことしたよなあ。」
「何が?」
「いや、俺たちは自業自得だけど。他のやつらまで……。」
「ああ…、そうね…。川を隔てて、会えなくなったのは私たちだけじゃなかった。」
女が少し悲しげに、申し訳なさげにうつむく。
「まあ、決まった日にしか会えないのは俺たちだけだけど。」
「……船屋の人たちには指名手配犯みたいに扱われてるものね、私たち。」
「まあ、間違ってはないけど。仕方ないよなあ、こればっかりは。」
「そうね。ところで。」
男の腕の中、抱き合ったままだった女が少し身を離して男を見上げた。
「ん?」
「どうして遅くなったの?いつも時間前に河岸に来てるのに。」
「ああ、いや…。」
男は苦笑して懐をさぐり、笛を取り出した。
「これを持って来ようと、来る途中急に思いついて。取りに帰ってたから。」
「笛を?」
「去年、この日が近づいた頃、吹いた笛の音に重なるように君の琴が聞こえた気がして…。それを、不意に思い出したから。」
「……。」
「ごめんな。」
頬をなでながら謝る。それに、女はゆるく首を振って、
「去年、私も琴の音に重なるあなたの笛の音を聞いたわ。」
頬に当てられた手に自分の手を重ね、そのまま強く握る。
「……この身はいつでもあなたに会いにいけるわけじゃないから。音だけでも、この気持ちだけでもあなたに届けばいいと……。」
男は少しだけ驚きに目を瞠った。
「そうか。」
そして、解けた腕を再び女の身体に回して、柔らかに力を込めて抱きしめた。
河岸にいた恋人たちの姿が、まばらになり始めている。
自分たちの家へ帰っていく者たちと、ここに残る者たちと。
そろそろ、時間だ。
「お二人さん、今年はどうするね?」
岸に船を止め、馴染みのおじさんが声をかけてきた。
「ああ、おじさん。今年もよろしくお願いします。」
「そうかい。じゃあ、ほら、乗った乗った。」
男が先に乗り、女の手を取って揺れる船に乗るのを手伝う。
「あんたらのお陰で、わしらは毎年商売繁盛だ。」
「ははは。たまには恨まれますがね。」
「恋人たちにゃあ、この川は邪魔以外の何者でもないからなあ。無理もなかろうよ。まあしかし、娯楽にもなってるからね。そう本気でもないんだろう?」
「ええ、忙しい時に、彼女の顔も見れないと睨まれるくらいです。」
おじさんがはははと豪快に笑い、
「さて、じゃあ行くかね。」
「はい。」
ゆっくりと船が動き出す。
今夜は祭り。
星々の川をゆるりと下り。
のんびりと歩いて家へと帰る。
今夜だけが逢瀬の彼らは別々に戻るが、それでも煌く光はやはり美しい。
「来た。」
「来たね。」
「今年も来たね。」
「嬉しそう。」
「良かった。」
「だけど今年も下界は雨だ。」
「昨日たくさん降ったものね。」
「だけど会ってほしいし。」
「天上だけで溜めておいたらこの川は渡れない。」
「仕方ないよね。」
「下界の皆には悪いけど。」
そう、こそこそと星たちが話していたのは内緒。
今年の七夕にちなんだ新作SS。
アップできてよかった。
微妙に前のと繋がってますが、特に続きというつもりはないんですよ;
単体で読んでも分かるようになってる、はず。
「もうすぐあの二人が来るよ」と。
「ごめん、遅くなった。」
「ううん、そんなに待ってないから。」
そうして二人は歩き出す。
今日だけは、両河岸は行来可能だ。
そこかしこに久方ぶりの再会を喜ぶ恋人たちが見受けられる。
いつもは夜遅くまで賑わう場所も、この夜だけは恋人たちだけのための場所になる。
もうしばらくしたら、彼らも思い思いの場所へと散っていくだろう。
男は1年ぶりのぬくもりを抱きしめながら、
「なんだか、悪いことしたよなあ。」
「何が?」
「いや、俺たちは自業自得だけど。他のやつらまで……。」
「ああ…、そうね…。川を隔てて、会えなくなったのは私たちだけじゃなかった。」
女が少し悲しげに、申し訳なさげにうつむく。
「まあ、決まった日にしか会えないのは俺たちだけだけど。」
「……船屋の人たちには指名手配犯みたいに扱われてるものね、私たち。」
「まあ、間違ってはないけど。仕方ないよなあ、こればっかりは。」
「そうね。ところで。」
男の腕の中、抱き合ったままだった女が少し身を離して男を見上げた。
「ん?」
「どうして遅くなったの?いつも時間前に河岸に来てるのに。」
「ああ、いや…。」
男は苦笑して懐をさぐり、笛を取り出した。
「これを持って来ようと、来る途中急に思いついて。取りに帰ってたから。」
「笛を?」
「去年、この日が近づいた頃、吹いた笛の音に重なるように君の琴が聞こえた気がして…。それを、不意に思い出したから。」
「……。」
「ごめんな。」
頬をなでながら謝る。それに、女はゆるく首を振って、
「去年、私も琴の音に重なるあなたの笛の音を聞いたわ。」
頬に当てられた手に自分の手を重ね、そのまま強く握る。
「……この身はいつでもあなたに会いにいけるわけじゃないから。音だけでも、この気持ちだけでもあなたに届けばいいと……。」
男は少しだけ驚きに目を瞠った。
「そうか。」
そして、解けた腕を再び女の身体に回して、柔らかに力を込めて抱きしめた。
河岸にいた恋人たちの姿が、まばらになり始めている。
自分たちの家へ帰っていく者たちと、ここに残る者たちと。
そろそろ、時間だ。
「お二人さん、今年はどうするね?」
岸に船を止め、馴染みのおじさんが声をかけてきた。
「ああ、おじさん。今年もよろしくお願いします。」
「そうかい。じゃあ、ほら、乗った乗った。」
男が先に乗り、女の手を取って揺れる船に乗るのを手伝う。
「あんたらのお陰で、わしらは毎年商売繁盛だ。」
「ははは。たまには恨まれますがね。」
「恋人たちにゃあ、この川は邪魔以外の何者でもないからなあ。無理もなかろうよ。まあしかし、娯楽にもなってるからね。そう本気でもないんだろう?」
「ええ、忙しい時に、彼女の顔も見れないと睨まれるくらいです。」
おじさんがはははと豪快に笑い、
「さて、じゃあ行くかね。」
「はい。」
ゆっくりと船が動き出す。
今夜は祭り。
星々の川をゆるりと下り。
のんびりと歩いて家へと帰る。
今夜だけが逢瀬の彼らは別々に戻るが、それでも煌く光はやはり美しい。
「来た。」
「来たね。」
「今年も来たね。」
「嬉しそう。」
「良かった。」
「だけど今年も下界は雨だ。」
「昨日たくさん降ったものね。」
「だけど会ってほしいし。」
「天上だけで溜めておいたらこの川は渡れない。」
「仕方ないよね。」
「下界の皆には悪いけど。」
そう、こそこそと星たちが話していたのは内緒。
今年の七夕にちなんだ新作SS。
アップできてよかった。
微妙に前のと繋がってますが、特に続きというつもりはないんですよ;
単体で読んでも分かるようになってる、はず。
「ああ、雨だよー。今日は織姫と彦星、会えないんだね…。」
「天の川が洪水起こすから、川を渡れないもんね。」
「や、会えずに悲しむ二人を哀れんで、かささぎが橋を渡したとも言うよ。」
「橋の上での逢瀬?それもロマンチックだなあ。」
「や、でもさあ、下は轟々と音のする川だよ。いまいちロマンチックにはかけるんじゃ…。」
「しかも、洪水起こしてるなら濁流だよね。確かにロマンチックっていうのはちょっと厳しいかも。」
「だいたい、七夕の夜に晴れてたことって少ないよね。」
「梅雨真っ只中だもんねえ。」
「じゃあ、一年に一回といいながら、実際には一年に一回さえ会えてないってこと?」
「そういうことになるね。」
「いや、今の暦じゃ7月7日は日本ではちょうど梅雨の時期になるけどさ、陰暦じゃ8月でしょ?」
「ああ、そっか、それなら会えるかもしれないよね。」
「どっちにしても年に一回しか好きな人に会えないのは辛いよね。」
「うん、だから一年に一回会うことを許された日くらい、雨とかでつぶれないでほしいよね。」
「じゃあ、陰暦の方を信じとく、とか?」
「うーん、でも、私たちは現行の太陽暦で動いてるし…。やっぱ自分たちに馴染んだ方の日にちで晴れててくれた方が何かこう、落ち着きがあるというか。」
「うん、素直に会えたんだなって信じられるよね。」
「どっちが本当に会う日なのかわかんないもんねえ。」
「そうそう。」
「うん…、ああ、そうだ。」
「?」
「何?」
「この雨はさ、天の川の水が降ってきてるんだよ、きっと。」
「洪水起こした分が?」
「そうそう。だから、きっと会えてるよ。かささぎに渡してもらわなくても、自分たちの力で。」
「………それって、素直に喜べなくない?」
「天の恋人たちが会えるのはいいことだけど、ねえ。」
「「私たちが!今まさに!難儀してるんだよ!」」
「あー、はは、うん、まあ…。降る予定なかったから、ねえ。」
「天の川が氾濫起こしたからって、その分をこっちに寄こされたら迷惑なの!自分たちが良ければそれでいいのか織姫彦星!」
「いや、それ織姫たちのせいじゃないし…。」
「文句あるの?」
「イエ、ナイデス……。」
「よろしい。」
「……でもさ、まあ、いいじゃない。土砂降りでもないし。」
「そういう問題じゃない!」
「うん、けどさあ、ほら。」
「なによ。」
「結構、綺麗じゃない?光に反射して、キラキラして。」
「……悪くはないけどさ。帰れないじゃん。」
「にわか雨だよ、きっと。大丈夫だって。」
「……その無駄に自信に満ちた断定はどこから来るのよ……。」
ああ、星が降ってくるよ。
七夕の。
雨の夜。
天の川が洪水起こして降ってきた。
七夕に寄せて、ラスト。
地上編でまとめてみました。
この後、きっと彼女たちはぶつくさ言いながら適当に宥められつつ家に帰るのです。
さて、明日は七夕当日ということで。
出来れば新作アップしたいけど。
できるかなあ;
できますよーに(汗)
「天の川が洪水起こすから、川を渡れないもんね。」
「や、会えずに悲しむ二人を哀れんで、かささぎが橋を渡したとも言うよ。」
「橋の上での逢瀬?それもロマンチックだなあ。」
「や、でもさあ、下は轟々と音のする川だよ。いまいちロマンチックにはかけるんじゃ…。」
「しかも、洪水起こしてるなら濁流だよね。確かにロマンチックっていうのはちょっと厳しいかも。」
「だいたい、七夕の夜に晴れてたことって少ないよね。」
「梅雨真っ只中だもんねえ。」
「じゃあ、一年に一回といいながら、実際には一年に一回さえ会えてないってこと?」
「そういうことになるね。」
「いや、今の暦じゃ7月7日は日本ではちょうど梅雨の時期になるけどさ、陰暦じゃ8月でしょ?」
「ああ、そっか、それなら会えるかもしれないよね。」
「どっちにしても年に一回しか好きな人に会えないのは辛いよね。」
「うん、だから一年に一回会うことを許された日くらい、雨とかでつぶれないでほしいよね。」
「じゃあ、陰暦の方を信じとく、とか?」
「うーん、でも、私たちは現行の太陽暦で動いてるし…。やっぱ自分たちに馴染んだ方の日にちで晴れててくれた方が何かこう、落ち着きがあるというか。」
「うん、素直に会えたんだなって信じられるよね。」
「どっちが本当に会う日なのかわかんないもんねえ。」
「そうそう。」
「うん…、ああ、そうだ。」
「?」
「何?」
「この雨はさ、天の川の水が降ってきてるんだよ、きっと。」
「洪水起こした分が?」
「そうそう。だから、きっと会えてるよ。かささぎに渡してもらわなくても、自分たちの力で。」
「………それって、素直に喜べなくない?」
「天の恋人たちが会えるのはいいことだけど、ねえ。」
「「私たちが!今まさに!難儀してるんだよ!」」
「あー、はは、うん、まあ…。降る予定なかったから、ねえ。」
「天の川が氾濫起こしたからって、その分をこっちに寄こされたら迷惑なの!自分たちが良ければそれでいいのか織姫彦星!」
「いや、それ織姫たちのせいじゃないし…。」
「文句あるの?」
「イエ、ナイデス……。」
「よろしい。」
「……でもさ、まあ、いいじゃない。土砂降りでもないし。」
「そういう問題じゃない!」
「うん、けどさあ、ほら。」
「なによ。」
「結構、綺麗じゃない?光に反射して、キラキラして。」
「……悪くはないけどさ。帰れないじゃん。」
「にわか雨だよ、きっと。大丈夫だって。」
「……その無駄に自信に満ちた断定はどこから来るのよ……。」
ああ、星が降ってくるよ。
七夕の。
雨の夜。
天の川が洪水起こして降ってきた。
七夕に寄せて、ラスト。
地上編でまとめてみました。
この後、きっと彼女たちはぶつくさ言いながら適当に宥められつつ家に帰るのです。
さて、明日は七夕当日ということで。
出来れば新作アップしたいけど。
できるかなあ;
できますよーに(汗)
君もこの川を見てるんだろうか
越えて行くには
あまりにも広く深いこの川を
この前
こちらで出来た友人が
陣中見舞いだと
話を一つしていった
下界では
私たちの逢瀬のあの夜に
願掛けをするのだという
それは
あの日に
事寄せたもの
あるいはあやかろうというもの
私たちの逢瀬を願うものだったりするという
人の願いを叶える力など持たないが
その日に集まる願いが
みな叶えばいい
いつでも願えば叶う
そんな「今」を持たないから
強くそう思った
そういえばこの話でもう一つ
付け加えるように
あいつが言っていた
願い事をすると同時に
管弦の宴をひらくのだと
この身が
この川の向こうへゆけなくても
音ならば届くだろうか
想いだけでも届けられたらと
そんな願いならば「今」も叶うだろうか
引かれるように笛をつかみ
唇に当てて
息を吹き込んだ
己の調べが風に乗り
ほんのわずかに遅れを取って
応えるように
絡むように
重なるように
静かに
微かに
聞こえた君の琴音が
気のせいでないといい…。
七夕に寄せて第二段。
牽牛視点。
越えて行くには
あまりにも広く深いこの川を
この前
こちらで出来た友人が
陣中見舞いだと
話を一つしていった
下界では
私たちの逢瀬のあの夜に
願掛けをするのだという
それは
あの日に
事寄せたもの
あるいはあやかろうというもの
私たちの逢瀬を願うものだったりするという
人の願いを叶える力など持たないが
その日に集まる願いが
みな叶えばいい
いつでも願えば叶う
そんな「今」を持たないから
強くそう思った
そういえばこの話でもう一つ
付け加えるように
あいつが言っていた
願い事をすると同時に
管弦の宴をひらくのだと
この身が
この川の向こうへゆけなくても
音ならば届くだろうか
想いだけでも届けられたらと
そんな願いならば「今」も叶うだろうか
引かれるように笛をつかみ
唇に当てて
息を吹き込んだ
己の調べが風に乗り
ほんのわずかに遅れを取って
応えるように
絡むように
重なるように
静かに
微かに
聞こえた君の琴音が
気のせいでないといい…。
七夕に寄せて第二段。
牽牛視点。










